悪魔ニ花束ヲ
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良い人だ。
あたしは温かいモカを飲みながら、フカフカのいい匂いのするタオルにくるまれて、小さく呟く。
男前さんは、あたしをカフェにいれると、大きめのタオルをくれた。どうやらこの店の店主らしい。この際遠慮しても仕方ないからそれでワシワシと髪を拭いている間に甘いモカを煎れてくれた。
こんなお洒落なカフェのお洒落な椅子に、場違いな濡れ鼠を躊躇する事なく案内するなんて。
良い人だ。
外見だけ見ればさぞかし女の人を泣かせてきただろう容姿なのに、ものすごく紳士で、気さくで、某製薬会社の半分優しさで出来ているらしい薬よりも、このお方は丸ごと優しさで出来ているんじゃないかとか。
「本当に悪かった」
あたしが昨今、この、人同士の触れ合いの少なくなった無機質な世界において奇跡的なその優しさ(?)に感動しているのにも関わらず、男前さんはまた申し訳なさそうに謝る。
「いえ、むしろありがとうございます」
ぺこりと頭を下げて、普段使わない表情筋を精一杯駆使して微笑んだ。