悪魔ニ花束ヲ

雨が酷くならないうちに、とあたしは席を立つ。基本、根暗でオタクのあたしの会話の引き出しの少なさにも久城さんは笑顔で接してくれて、雨が小降りになるまでの時間はあっという間に感じた。


「えっと、いくらですか?」

なんとなくメニューに目を向けていたけど、出されたモカがどれに該当するのか分からない。

「え?ああ、かまわないから」

「いや、そういう訳には」

タオルだって借りたし、最近の疲れた体を癒してくれる時間だって提供してもらったし。その値段、プライスレス。

「ずぶ濡れにしたのも強引に店に入れたのも俺だからな、本当は家まで送ってあげたいんだけどなー」

「いやいや、なんてことを。そこまでいくと神越えますよ」

「……?」


頭にハテナを飛ばす久城さんにあたしは千円札を渡す。だけど、久城さんは苦笑してから、


「それなら、次に雨が降った時また来て欲しい。お代はその約束で」


と、女子卒倒のウインクをくれた。




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