彼女がいつも思っていた事…(とある物書きの独り言)
「風景描写を人に伝えるのって結構高難度な表現技法が必要になるけど、その高難度な部分は存外比喩(ひゆ)的表現で言う事が多いの。」

「…悪い、脳みそがショートしそうだ。」

「ん~…例えるなら。(現実ではなるわけがない)物を(あるかの様に)表現する事。これが比喩的って物よ。そうね、例えば…」


風が通りすぎた。


「って言葉があるじゃない?」

「おう。」

「このままだと、表現が単純すぎて書く必要はないでしょ。だから…」

風がその暖かな空気を伝えるかの様に通りすぎた。

「こう書いた方が季節感は出るでしょ?」

「そうだな、少なくとも冬じゃないって事だけは解るな。それに風が吹くって何かの予感を思わせる表現技法の典型だもんな。」

「そう、プロの小説家でも風を使ってその場の雰囲気の表現する人とか多いもんね。そうねぇ、例えば…」

一陣の風が広がる草原の草木を揺らし、砂利を僅かに巻き上げる。

「とか…」

「へぇ、ってか。ここは草原で足場は砂利道だったのかよっ!?」

「道としか言って無いしね、アスファルトの道路だなんていつ言った?」

「いやまぁ、確かに…」

「もっと世界を広げるならこんな感じ…」

熱を緩やかに孕む一陣の風が、広がる草原の草木を揺らし、最近降り続いていた雨の水たまりが砂利を含んで濁り、微かに波紋をひろげた。

「へぇ、季語をいれてきたのか。」

「うん。こうすれば短い文章の中に草原・砂利道である事が解るし、熱を持った空気に最近続いてた雨の水溜まりってところで(夏が近い梅雨時)ってのも間接的に解るじゃない。」

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