エンドロールを永遠に
高校2年、春。
『ゆうくん、早く早く!』
「絵莉花、待てって!転ぶぞ!」
高校に入学して一年が経ち、馴れてきた階段を一気に降りる。辿り着いた先の正面玄関の掲示板前は、すでに沢山の生徒で溢れていた。生徒たちの目線の先には掲示板に貼り出された大きな模造紙。
『み、見えない……』
「ほら、お前小さいんだから待ってろ」
『うん!』
私が背伸びをしても見えない人の壁の先を、背の高いゆうくんがのぞきこむ。
泣き叫ぶ声、喜ぶ声、今年度の運命が一瞬にして決まる今日。
【クラス替え】
私たちもその運命を確認するため、この戦場へやってきたのだ。
『どう?ねぇ、ゆうくん!』
我慢できずに、ぴょんぴょんと跳ね回る私の頭を押さえ、ゆうくんは言った。
「一緒、3組だ」
『きゃーーーーっ!』
「うわっ」
嬉しさのあまり泣きながらゆうくんの首にしがみついた。単純だとは思うけど、付き合いはじめて間もない私たちにとって、それはとても意味のあることだった。
「絵莉花、教室いこうか」
『うん!』
二人が付き合い始めたのは高校一年の冬。
家が斜め向かいということで、幼馴染みとして育った。
お互いの気持ちに気がつくのに時間はかかったけれど、ずっと家族同然に育った私たちは今まで以上にお互いが大切な存在になった。
「出席とるぞー、相川ー」
ガタガタと席につく生徒たち。新しい先生に新しいクラスメイト。今日から新学期の始まりだ。
「黒崎ー、黒崎有希ー」
「はーい」
気だるく答えるゆうくんの声に、胸が高鳴る。
ずっと一緒にいたはずなのに、同じクラスになって、柄にもなく男の子なんだと意識してしまう。
ゆうくんは、モデル並みの身長とルックスでとても人気がある。それに加えて、テニス部部長、有名ホテルをいくつも経営している黒崎グループの跡取り息子という肩書きがあるため、いつも女の子たちの視線を独り占めしてしまう人。
「日向ー、日向大地ー!起きろ!」
「うわぁ!」
「ハハッ」
あ、笑った。
気取ってなくて、素直。時々強引だけど、そんな性格が大好き。後ろから眺める彼の姿が新鮮で少しときめく。
「南ー」
『はい!』
今日から素敵な1年が始まる。
沢山の思い出を作ろう。
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ガヤガヤと騒がしい教室。
放課後は部活へいくもの、教室でおしゃべりを楽しむもの、すぐに帰宅するもの、いろんな人がいる。
「だーかーらー!」
『日向大地、うるさい』
「寝てへんよー!」
私の席の前で泣きべそをかく男は、日向大地。
ゆうくんの大親友。
中学生の時に大阪から東京に引っ越してきて、それからというもの私たちと仲がいい。
彼もまた人から好かれる。人懐っこい性格と、可愛らしい外見で、皆のムードメーカーのような存在だ。
「新学期早々寝る馬鹿いねぇよ」
「うっさい!俺は寝てへん!」
「部活では寝るなよー」
「わかっとる!あー!今日一日それしか言われとらんのちゃうか俺!」
大地もゆうくんと同じでテニス部部員。
こうやって放課後になるといつも二人で部活へいってしまう。私はそれを見送る。
「じゃあ、行ってくるな」
『うん、いってらっしゃい!』
ゆうくんは私の髪をくしゃっと撫でて、大地と共に部活へ向かった。
『さ、図書室いこ』
ゆうくんが終わるまで本を読む。
これが私のいつもの日常。