月夜見ヴァーメイル
第一章
お祖父ちゃんからの贈り物
蝉が、鳴き始めた。
私は教師の声を子守唄に、うっすらと閉じていた目を開けた。
ごく普通の教室の風景。
水色の半袖のワイシャツに水色と緑のチェックのスカートやズボン、
それらを身に付けているクラスメート達がぼんやりと黒板を見つめるなか、笑い声を響かせながら走り回る着物の子供達。
入学当時はとても驚いたが、1年くらいも経てば流石に慣れた。
だけどこの子供達は私にしか見えていない。
「きゃはははははは」
「だから、ここにはこの公式が当てはまる」
「きゃはははははは」
「そして、こことここを証明してから」
「きゃはははははは」
こんなに煩い笑い声なのに誰も気にしていない。
それが私しか見えていないという、一番の証拠だろう。
御駈坂(ミガリザカ)高校 、裏に森があるこの学校は昭和からあり地域の中心となっている。
また私立ではないが、幼小中校もあるため顔見知りが多い。
もちろん私も幼稚園の頃から御駈坂だから、知ってる人ばかりである。
そんな御駈坂には、噂が絶えない。
特に高校は。
それもそのはず、この高校の裏に広がる森には、こんな見えない子供のようなモノがたくさんいるのだから。
人には見えないが、そこに確実に存在しているモノ。
お祖父ちゃんはそんなモノ達を
『アヤカシ』と呼んでいた。
お祖父ちゃんは、昔から不思議で
お祖父ちゃんが「嵐が来る」と言ったら、嵐が来た。
お祖父ちゃんが油揚げを庭に投げると、一瞬で消えた。
お祖父ちゃんは、何かがそこにいるように壁に接したりもする。
お祖母ちゃんは穏やかに笑って見守るだけだ。
そんなお祖父ちゃんも私が小学校5年生の時、息を引き取った。