月夜見ヴァーメイル
「返して!」
カラスを睨み付ける。
それは大切なものなの!
なくちゃ、駄目なの!
お祖父ちゃんから、預かってるものなんだ!
だから…
「返してっ!」
恐怖なんていつの間にか何処かに消えていた。
今は頭上のカラスを捕まえることしか頭にない。
『…汝は、我を追うことべからず……』
「はあ?!」
誰が、今喋ったの?!
赤目のカラス…?
でもお守りが口にあるから無理じゃないの?
もちろん、どう考えたって答えはでて来ない。
……あーっ!もう!どうでもいいし、何でもいいよ!
思わず苛ついて地団駄を踏んでしまった。
そして私はどこからか聞こえてた声など忘れたかの様にカラスに向かっていった。
すると、目を細める様な仕草をしたカラスは森の方へと飛んでいった。
それを追いかけ、私も走る。
森の手前のフェンスを上り御駈坂森にへと足を踏み入れた。
子供の頃は何回か森にいったことがあるが、妖怪達が見えるようになってからは一度も来てない。
走る前に、もう一度空を見上げたら気付けば、カラスは結構先の方にへと飛んでいた。
い、急がなきゃ!
足に力を入れ、思いっきり地面を蹴った。
木々の隙間をすいすい進んでいくが、カラスには到底追い付けない。
しかも、どんどん遠ざかっていく。
妖怪達にじろじろと見られながら、走る。
―走る
――走る。
時々転けながらも、走っていく。
ふと後ろを振り向いたら、フェンスなど何処にも見えなくなっていた。
もうなん十分かは走ったのだ、当たり前だろう。
「はあっ!待っ!はあっ!はあっ!」
ああ、息が上がって、もう…。
こんなに体力なかったっけ?
ああ、ヤバイ。
お菓子食べなければ良かった。
―――…
――――…
どれくらい経ったか、なんて分からない。
でも空はもうすっかりと暗くなっていた。
それにカラスの鳴き声は聞こえるも、姿は見えなくなっていた。
走るスピードも歩いている方が確実に速いレベルだ。
「はあっ!ちょ、もう…」
無理、そう言おうとした時、
「……うそ、」
古くこじんまりとした赤い鳥居が目に入ってきた。
しかも鳥居はひとつではない。
小さい鳥居から順にどんどん大きくなっていく様に鳥居がおかれている。
私は固唾を飲み込んだ。
足はとっくに鳥居の方にへと向かっていた。