紅蓮の炎







響 side


『南にだけは喧嘩売るな』

「あの日、この教えは二重の意味を持つようになった。

一つは、先代から言われ続けている 紅蓮 と交戦しないため。
もう一つは」


そこで、すっと息を吸い込み言葉を紡ぐ。


「せっかくできた仲間を失わないためだ。
あとは任せたな、響。雄。瑠衣。克也。夏。
俺達の出番が必要になったらいつでも声かけてくれ
駆けつけるからな。」


厳つい顔を優しく綻ばせ、俺達に言ってくれたのを覚えている。
あの時頷いたのも覚えている。

バジリスクを倒し、東西南北と中央全てを制する事は初代からの夢だった。
北からの脅威に怯えない、安全な街にするために手を組んでできた連合だ。

だから北が関係すると歴代の龍神の方達は何かしらで手を貸してくれる。
















総長に言われた言葉を思い返した。

そして隣を歩く雄の方を向いてみる


「色々思い返していたみたいだけど、“紅蓮”については思い出せた?」

「あぁ。思い出した。」


校舎内にはなんとか入れた。
今日は入学式もあるから終わるまでの2時間程度は教室待機となっている。
だが実際はそれを守る生徒なんてごくわずかだ。
他の教室に訪ねていく生徒も居れば、入学式をこっそり観にいく生徒もいる。
俺達も、入学式を見に行きはしないが人の寄り付かない空き教室へと足を向けた。


「それで、その 紅蓮 がなぜ今になって出てくるんだ?」


空き教室に着くまで手持ち無沙汰な俺は雄に気になっていた質問をぶつける。
だが雄難しそうか顔をした。


「僕もなんで急に出てきたかは分からないんだけど、
でもどうやらバジリスクがうちの目を掻い潜って南に入ってたらしいんだ」

「パンサーも気づかなかったのか?」


パンサーが特に南町について目を光らせている。
その事は確かで、これまでだって幾度となくその侵入を阻止してきた。


「どうやらそんな感じなんだ。」


空き教室に着き、中に入ると予想通り、


「よー」

「はよ〜」


克也と瑠衣が居た。
初田克也と長渕瑠衣。
俺と雄は今年3年になる。
克也と瑠衣は2年。夏が今年入学で1年だ。


「なに〜?朝から難しそうな顔して〜」


ダラダラと視線を寄越してくる瑠衣は所謂色気男子。
その隣に居る克也は銀髪に色とりどりのピアスというかなり目立つ出で立ちをした奴。
どちらも顔がいいため廊下を一歩歩くだけで周囲が色めき立つ


「紅蓮についてだ」

「紅蓮…?あ〜、南のね〜」

「なんかあったのか?」


克也の疑問にさっきまで雄と話していた事を話す。


「パンサーに一回きいてみたらいいんじゃねぇの?」


克也のその意見は最もだ。
だが


「誰きくよ〜?」


問題はそこだ。


「誰ってそれは…」


雄がこちらに視線を向けてくる。
それにならって克也と瑠衣まで俺をみてきた。


「なんでもかんでも俺にふるな。」


顔を顰めたくなる。


「何いってんだよ、俺様な響ならいけるって!」

「いや〜、一番俺様なのって克也じゃね〜?」

「確かにね」

「は?どっちかっつーと響だろ!」

「この前自分で俺様って言ってたじゃん〜」


反論するも自分で墓穴を掘ったのが運の尽き。


「きくのは克也な」


俺の最後の一言で克也で決定した。


「…今更なんてきくんだよ?」


頭を抱えて唸る克也に同意したくもなる。


「今まであえて触れてこなかったからな。」


何度も言う通り、あの言い伝えは龍神連合の上層部しか知らないし、おいそれと口に出せるような内容ではない。
興味本位に南町へ行く奴が現れるかもしれないし、最強と謳われる龍神連合に恐れるものがあるのかと、戦意を削ぐ可能性もあるからだ。

そして何より、

誰もきこうと思わなかったからだ。

触れてはいけない事だと無意識に誰もが避けて来た。
その空気を感じたのかパンサーも自分達から南町の話しはしてこなかった。

ただきかれた事を答えるだけで…


「…まぁ、大丈夫だろ。」

「おまっ、自分がきかないからって‼︎」

「まぁまぁ〜、頑張ってよかっちゃん!」

「かっちゃん言うな‼︎!
雄なんとか言ってくれよ!」

「お願いしますね」

「だぁぁぁああああ‼︎‼︎!
もういいよ‼︎ちゃんとフォローはしろよ‼︎」

「あぁ。分かった」


ちょうど話しに区切りがついた時、


コンコン、


と、ノック音がした。


「はい」


雄がそう返事をすると、ガチャと扉が開き、2人入ってきた。



「あぁ、いらっしゃい
美鈴さん、要さん」








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