紅蓮の炎
そう言って雄が迎えたのは2人の女生徒だ。
「おはよう」
名前に鈴とついているのが頷ける。
「おはよう」と挨拶した美鈴の声は耳に心地よく鈴がころころと鳴っているかのようだ。
思わず顔に笑みが浮かぶ。
「あぁ、おはよう。美鈴」
自分でもびっくりするような優しい甘い声が出た。
俺の他にもおはようと返す声は全て美鈴に向けられており、もう一つ言うと
その声には全て恋情が込められていた。
「朝っぱらから何惚気てんだ男共」
そうドスのきいた声を出したのは美鈴と一緒に入ってきた要の声だ。
美鈴の美しい声の余韻に浸っていたのを一気に崩されて思わず要を睨む。
その視線に、男装をすれば一気に学園の王子にでもなりそうな容姿の要は顔に相応しくハッとこちらを嘲笑った。
性別は女の筈なのにどうしても彼女は俺達の最大の恋敵に思える。
鶴賀咲 美鈴
内藤 要
この2人は俺と雄と同い年で高3だ。
美鈴は艶々とした長いストレートの黒髪に白いもち肌に大きなクリクリとした黒目、薄ピンクのふっくらとした唇とほっそりとした容姿の、もう二度とこれから先の人生で見ないと確信する程の美少女だ。
反対に要は男の俺達と並べるくらいの身長を持ち、短い茶髪に切れ長の目、スッと通った鼻筋に薄い唇に少し低めの声…、
男だったら確実にモテる容姿をしている。
実際は男じゃなくとも彼女は女子(稀に男子)から圧倒的な支持を得ている。
そして彼女達は前に少し出ていた『紫月』のNo.1と2だ。
噂は本当で、彼女達が紫月だと知っているのは龍神連合の上層部のみ。
総員が30を満たないのも事実だ。
「入学式はいいのか?」
美鈴と要を含め紫月のトップ5は紫月とバレない為のカモフラージュに生徒会に入っている。
今日だって入学式だ。
生徒会会長と副会長がこんなところに来ていていいのだろうか?
「私達の出番はもう終わったのよ」
そう言って微笑んだ彼女はとても美しい。
「そうだったんだ。」
雄が答えながら、用意したお茶を並べ、2人にソファーへ座るよう促している。
この部屋は代々龍神が集まる時に使っていた。
だから“空き教室”と言ってもそれは俺達だけで、他の生徒からは龍神の溜り場と認識されていて、一般の生徒は近づかない。
だから、この教室は“空き教室”と言うのは俺達だけで、実際中はソファーやティーセット、小さなキッチンに本棚など、本来教室に無いものが多々ある。
「ありがとう」
雄に小さく微笑んで座る美鈴。
ただそれだけなのに自分の中で嫉妬心がうまれる
俺だけにその笑顔を向けてくれ…
美鈴と要が座ったソファーの前に克也と瑠衣も座り、楽しそうに話しをする。
誰もが美鈴に夢中だ。
彼女しか目に入っていない。
輪の真ん中で可憐に微笑む彼女を見て、
そう言えばそんな美しい彼女達を見ても点で反応が無かった奴等が居たな。
と、今更ながらに思い出した。
パンサーだ。
パンサーの性癖が分からない。
美鈴を含め、紫月のメンバーをみても彼らは無反応だった。
多少した反応と言えば、
「びっじーん‼︎」
「ヒューヒュー」
「君可愛いなぁ〜、何処の子なん?」
なんてそこら辺に居る女にナンパするかのように声をかけ、彼女達のごく一部を赤面させていたくらいだ。
その事を思い出してみると、
俺は少しあいつらパンサーの事が不安になった。
なんせあそこには朔夜が居る。
年を重ねる度に彼は少年の色気、というものが抜けだし、
今では少年と青年の間を彷徨う様な危うい色気を漂わせている。
同じように色気を漂わせている瑠衣。
瑠衣のその色気の対象が女だということは分かる。
でもどうしても朔夜は違うような気がして仕方がない。
そして真守の存在も思い出した。
愛くるしささえ沸き起こるような可愛らしい顔立ちや馬鹿みたいに世間知らずじゃない事。
誰に対してもふわふわとした柔らかい雰囲気で対応することなどが同じ可愛らしい顔立ちをした夏と違うところだ。
それにフラつく男だってかなり居る。
こっちだってちょっとでも気を抜けば持って行かれそうになったことが数え切れないほどあるくらいだ。
あの2人はいつも不意打ちでストライクボールを投げ込んでくる。