君と歩く
「じゃ、私帰るね?」
ここに長居したらいつ泣いちゃうかわからない。
教科書とったし、残すことは何もない。
「すっ…鈴木っ…」
黒原くんは、ドアに手をかけた私に声をかけてきた。
やめて、話しかけないで。
これ以上、"普通"を演じるのは無理だよ。
私は、顔を見られぬよう、背を向けて黒原くんに返事をした。
「なぁに?」
「…その…、聞こえて…た?」
うん。
聞こえてたよ。
黒原くんが好きだから、悲しかった。
でも、黒原くんは、私が嫌い。
話しかけないでくれたらいいのに。
「…別に、なんとも思ってないからね」
『聞こえなかった』って言えばよかったのはわかってる。
でも、気づいたらなんともなかったって返事してた。