煙草味のキス。
「もう…和也にはあの権利はあげられないね」
あたしの隣にいることが権利という言葉にするなら、その権利は太郎ちゃんのものだ。
もう和也のものじゃない。
「だから前日の今日に来たんだろ」
「え…?」
「和子、成人おめでとう」
「…ありがとう」
18歳のあたしはこんな他人行儀みたいに和也から祝われるなんて思いもしなかったんだろうな…。
そう思いながら笑顔で答えると、和也はいきなり近づいてきてあたしの頭に優しく手を乗せた。
「あと、結婚おめでとう」
「………知ってたんだ」
緑の奴…か。
『すっきりさせて、そんで……いや、何でもない』
昨日最後に口を濁す緑を思い出す。
緑…ちゃんとすっきりさせて、太郎ちゃんと結婚するよ。
「あーあっ、お前の花嫁姿の隣は俺だと思ってたんだけどな」
「うふふ…残念でした」
左手の人差し指に嵌められた指輪を右手で優しく撫でる。
「ごめんな、俺は式には行けねぇわ」
「招待する気すらなかったから大丈夫よ」
「…冷たい奴だな」
頭に乗せられていた手で軽く叩かれた。
「うふふ…だって、和也に見られて和也じゃない人の元へ嫁ぐ気にはなれないわ」
笑って答えようとした瞬間、ずっと我慢していた涙が一気に流れた。