煙草味のキス。
一瞬の沈黙の後、緑は困った様な顔をしながら頭を掻いた。
「和子…泣くなよ。化粧が落ちるぞ」
「緑、あんた……嫌がらせ?」
「そう言われたらそうだな。嫌がらせだ」
「性格悪すぎるわよ」
「そんなことずっと前から知ってることだろ」
「煙草……緑はいつも違うじゃない」
兄弟でも、煙草の銘柄の好みは違う。
なのに今緑が吸っている銘柄は身体に染み付くほど知っている匂いの煙草。
和也が吸っていた煙草の匂いだ。
「まぁ、嫌がらせ半分、最後の悪あがき半分だ」
「何それ…」
意味分かるよう説明してほしい。
「なぁ、和子」
「何?」
「お前は自分の選択、間違ってないと思うか?」
選択…。
そう考えた瞬間、太郎ちゃんと和也が頭の中を掠めた。
「………えぇ。あたしは選択を間違ったことないわ」
「…そうか、分かった。
悪かったな、ドレスを汚すようなことをして」
ちゃんと化粧直ししてもらえよ、そう言って緑は静かに控室から出て行った。