強引男子のイジワルで甘い独占欲
キッチンの中から聞こえてくる会話は、母親同士がお互いの子どもを褒め合うっていう、至って普通の会話だ。
他の家庭でこういう話が繰り広げられているのかは知らないけれど、うちは親戚同士の集まりがある度にこういう会話を聞いてきたから、私を全然ダメだと言う母親の言葉を聞いても今更特に思ったりはしない。
小さい頃は、私よりも朋絵が好きなのかとかそんな事を思って落ち込んだりもしたけれど、社会人になった今は愛情のある悪口かそうじゃないかをそれなりに分かっているつもりだから。
それに、おじさんには悪いけど、こういう場で自分の子どもをべた褒めするのもそれはそれでどうかと思う。
他の国ではどうだか知らないけど、とりあえず日本ではお母さんたちが交わしている会話が無難で正しい例だとも思う。
だから、別にこんな会話を聞いたところでどうって事ないのだけれど。
なんていうか。
タイミングが悪いって言葉につきる。
なんで、慎司が私を振って朋絵を選んだタイミングで、私に結婚は難しいだとか朋絵と結婚する人が幸せだとか聞かされなくちゃならないんだろう。
勝手に聞いたのは私だし、悪気がないのも分かってるけど、それにしたって傷心にはかなり堪える。
はぁ、と大きなため息で鬱々とした気持ちを吐き出してから、気を取り直してみんなの集まる部屋に足を向ける。
ご飯を食べ終わればこの回もお開きだ。だから頑張ろう。
そんな事を思いながら、重い足を引きずるようにして部屋に戻った。