強引男子のイジワルで甘い独占欲
慎司と別れてから、安心した事がひとつだけある。
それは、他の社員に私たちの交際を秘密にしていた事。
特に注意してそれはそれは厳重に秘密にしていたわけではないけれど、聞かれてもはぐらかしていた。
付き合っている人はいるけど、相手はぼやかす感じで。
それは慎司も同じだったみたいだし、今までに慎司と私の事が噂になったりした事もないから。私たちの関係を知っている社内の人間はいないハズだ。
元々、私は事務で慎司は営業だから仕事上でもそんなに関わる事はないけれど、それでも別れたうんぬん周りが知っているのはやりにくいから、付き合い自体を秘密にしていた事は正解だった。
付き合い始めた時は別れた後の事なんて考えられなかったから、秘密にしたのは無駄に騒がれたくないっていうような別の理由だけど結果的には大正解だったと思う。
振られた上、それを周りでひそひそされたらとてもじゃないけどやってられない。
そんな事を考えながらパソコンで頼まれた資料作りに勤しんでいた時、隣からの視線に気づいた。
「なんですか、小谷先輩」
視線をパソコンから移しながら聞くと、小谷先輩はえ……っと上ずった声を上げた後、そわそわした様子で話し出す。
「あのね、気を悪くさせちゃったらごめんね?
実は、佐野さんの噂話聞いちゃって……本当かなって見てたの」