電波的マイダーリン!
知らない靴がある。
男物の靴がある。
知らないはずなのに、どうしてかな、わかってしまう。
彼が来ている。
あたしは慌てて、いや、反射的に踵を返していた。
嫌だ。
みんなが居ない今、1人で居る今、彼に会ったら、あたし――…
「お帰り、チィ」
…――泣きたくなってしまう。
あたしはドアに手を置いたまま、ゆっくりと肩越しに振り返った。
そこには、穏やかな笑みを浮かべた、葵の姿。
「葵……お兄ちゃん…」
弱々しい声でそう呼ぶと、葵は嬉しそうに笑った。
「あぁ、やっと呼んでくれたな」
「あ…なんで…」
上手く言えなくて、詰まるあたしの言葉を、葵が代弁するように。
「なんで居るのか…ってことかな?
……まあ、とりあえず上がりなよ。って、僕の家じゃないんだけどね」
葵は困ったように笑いながら、あたしに背を向ける。
あたしは息を呑んで、自分の家なのに葵がいるだけで違うように思う、
けれど間違いなくあたしの家へと足を踏み入れる。
葵の背中を追ってリビングへ向かうと、そこにはお母さんが居た。