真紅の空
身代わり
*
はっ、はっ、はっ、と大きく肩で息をする。
一度目を強く閉じてもう一度開くと、
そこはもう仁の部屋じゃなかった。
なんだか行き来する時間が短くなったようにも感じる。
それは何故だろう。
あたしが仁に酷いことを言ったから?
本当に自然にポロリと零れ落ちた言葉だったけれど、
あれは仁には酷な言葉だったと思う。
仁はどうしただろうか。
今も向こうにいるあたしに、何か言っただろうか。
仁はあたしがこっちに来ているということが分かるのかな。
仁に何も弁解出来ないまま、こちらに戻ってきてしまった。
どうしよう。仁、泣いてた。
あたしの前で泣くなんて、初めてかもしれない。
「由紀殿。どうされました?」
「のり、あき……くん」
「はい?」
目の前に則暁くんがいた。
外は暗いのだろうか。
蝋燭の明かりが灯されていて、その炎がゆらゆらと揺れている。
今は、夜。暁斉はどこにいるのかな。
「あの、暁斉は?」
「暁斉様はお部屋におります」
もう暁斉は驚かないのかな。
あたしは飛ぶ度に頭が追いつかずに戸惑ってしまう。
そういうところ、暁斉のほうが大人だと感じる。
もう何回目なんだ。
もうそろそろ慣れたっていいだろうとも思うけれど、
やっぱりこんな非科学的なこと、
慣れるほうがおかしいとも思う。
そうだ、暁斉が変人なだけだ。
「由紀殿」
「えっ?あ、はい。何?」
突然名前を呼ばれて目を上げると、
則暁くんが真剣な瞳でこちらを見つめていた。
こうしてみると、暁斉に似ていると思う。
「貴女様は、暁斉様を好いておられますか?」