真紅の空


「きゃっ!」


「そんな声を出すな。
 さっさとこの手を離せ!!」


あ、そっか。


あたしがさっと手を離すと、
暁斉は着物の襟元を整えた。


「ご、ごめん・・・。
 その・・・色々」


「色々とは何のことだ?
 気安く俺に触れたことか?

 友だという戯言を言ったことか?
 それとも、
 俺を突き飛ばしたことか?」



全部よ、全部!


目でそう訴えると、暁斉はため息をついた。


「ふん。まぁいい。
 それよりもどうなっているのか説明しろ」


「説明って言われても・・・。
 あたしだってわかんないわよ」


「ここはどこだ?」


言葉は動揺しているのに、
その声と態度はとても冷静なもので。


すらりとのびた背筋が大人びていた。


「ここはあたしの部屋。なんであんたがいるか、
 こっちが聞きたいくらいよ。
 多分、あなたはタイムスリップしたんだと思う」


「たいむすりっぷ・・・?」


そう。タイムスリップ。


そんなこと、馬鹿げてると思うけど、
もうそんなこと言ってられない。


だって、起こってるんだもの。


自分がタイムスリップしたなんて信じられないけど、
相手がここに飛ばされてるんだよ?


そう理解するしかないじゃない。


あたしはふぅっと小さく息をついて、
未だに眉を顰める暁斉に声をかけた。


「タイムスリップっていうのは、
 自分の在るべき時代とは別な時代に飛ぶことよ」


「別な時代?飛ぶ?・・・何の話だ?」


「つまり、あたしがあんたの時代にいたのも
 タイムスリップ。
 あんたが今ここにいるのもタイムスリップなのよ」


そう。


そうなの。


あたしたち、タイムスリップしちゃったんだ。


だけど片方が片方の時代に、じゃない。


お互いに、お互いの時代に飛んでしまったんだ。


それが、今あたしに起こっている状況なんだと、
あたしは嫌でも理解させられた。





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