真紅の空
雪姫があたしをじっと見つめた。
その目は冷たく、力強かった。
だからって、怯むと思わないでよね。
あたしはそんなことで動じたりする女じゃないわ。
感情を表に出さず、背筋を伸ばして軽く会釈をすると、
雪姫は深く息をついて口を開いた。
「今日のところは戻ります。
ですが、私が来たことは必ずお伝えください」
「承知致しました。必ずや、暁斉様のお耳に」
「また来ます。由紀・・・さん?」
「え・・・あ、はい?」
「同じ名なのですね。以後、お見知りおきを」
「え、ええ。こちらこそ」
「姫様。お供致しますか?」
「いいえ。結構です。連れがいるので」
「左様でございますか。では、お気をつけて」
「ありがとう」
深い笑みを残して去っていってしまった姫様。
まるで春の穏やかな嵐のような、そんな人。
あたしはその場に立ち尽くしていた。
「由紀殿。大丈夫ですか?」
「え?あ、ああ。大丈夫よ。別に・・・」
「あの方は・・・。姫様はああいうお人です」
「則暁くん・・・?それ、どういう・・・」
「容姿端麗で、織田家の姫君。
あの方はそれで成り立っている人です」
意味深な則暁くんの言葉に、あたしは息をのんだ。
「則暁くん・・・?」
「私は・・・あの人が嫌いなんです」
「え・・・?」
「この手で殺してやりたいほどにね」