真紅の空
*
はっと気付いた時には、
あたしは着物を着ていた。
何?もしかしてまた“戻って来た”の?
横を見ると、呆けたような表情をした暁斉が立っていた。
手には何か丸めた紙みたいなものを持っている。
なんだろうと思う間もなく、暁斉が声を上げた。
「戻って来たのか!やったぞ。俺の時代だ!」
「戻って来たって、あんたねぇ、
今度はあたしがよくないのよ!」
「それは知らん。俺にはどうしようもない」
きっぱりと言うもんだから落胆してしまう。
また戻って来た。この変なタイムスリップはどうして起こるの?
何かきっかけになっているものがあるのかな。
あと何回続いて、あと何回、
あたしはこっち側に来てしまうんだろう。
「ねえ、暁斉。それ何?」
暁斉の手にしていた紙を指さして問うと、
暁斉は思い出したようにその紙を掲げて口を開いた。
「この書簡は戦闘命令だ。
もうじき戦が始まる。
此度の戦で俺が指揮を執れと」
「い、戦?」
「そうだ。此度の戦は、信長公の戦と言ってもいい。
前の戦は室町幕府を滅亡に追い込むための戦だったからな。
此度の戦は信長公の勢いが増すだろう」
「それって、槙島城の戦い?でも、槙島城の戦いは
二月から七月にかけて行われた戦よね。
あっ、則暁くんが今は元亀四年、
葉月の八日って言っていたけど、
この時期だともう天正なんじゃない?」
あたしがべらべらと喋ると、
暁斉は眉を顰めてあたしをじっと見つめた。
何?何か変なこと言った?