真紅の空




はっと気付いた時には、
あたしは着物を着ていた。


何?もしかしてまた“戻って来た”の?


横を見ると、呆けたような表情をした暁斉が立っていた。
手には何か丸めた紙みたいなものを持っている。
なんだろうと思う間もなく、暁斉が声を上げた。


「戻って来たのか!やったぞ。俺の時代だ!」


「戻って来たって、あんたねぇ、
 今度はあたしがよくないのよ!」


「それは知らん。俺にはどうしようもない」


きっぱりと言うもんだから落胆してしまう。
また戻って来た。この変なタイムスリップはどうして起こるの?
何かきっかけになっているものがあるのかな。
あと何回続いて、あと何回、
あたしはこっち側に来てしまうんだろう。


「ねえ、暁斉。それ何?」


暁斉の手にしていた紙を指さして問うと、
暁斉は思い出したようにその紙を掲げて口を開いた。


「この書簡は戦闘命令だ。
 もうじき戦が始まる。
 此度の戦で俺が指揮を執れと」


「い、戦?」


「そうだ。此度の戦は、信長公の戦と言ってもいい。
 前の戦は室町幕府を滅亡に追い込むための戦だったからな。
 此度の戦は信長公の勢いが増すだろう」


「それって、槙島城の戦い?でも、槙島城の戦いは
 二月から七月にかけて行われた戦よね。
 あっ、則暁くんが今は元亀四年、
 葉月の八日って言っていたけど、
 この時期だともう天正なんじゃない?」


あたしがべらべらと喋ると、
暁斉は眉を顰めてあたしをじっと見つめた。


何?何か変なこと言った?


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