真紅の空



「どうしてそれを知っている?
 確かに今は天正元年だ。則暁が間違えたのだろう。
 なんだ?お前は何者だ?この時代の人間じゃないくせに」


「この時代の人間じゃないから分かるのよ。
 あたしたちの時代では、あなたたちの時代のことも
 多少は勉強するものなの。
 
 教科書って言って、一冊の本に歴史が
 ずらずらと並んでいるのよ。
 あなたの時代も、あなたより前の時代も、
 あなたより先の時代もね」


「そう……なのか?では、
 お前は俺の生涯も全て分かるということか」


「それは……分からない。史実上、
 あなたの名前は出てこないもの」


それってとても悲しいこと。


ここにこうして生きているのに、
先の歴史には登場しないなんて、
一体何のために生きているのか分からなくなってしまう。


まして信長のために戦をするのに、
自分の名前は残らずに信長の名前だけが残る。
信長は有名だから誰でも知っているような武将なのに。


それじゃあ、暁斉たち家臣は一体何なの?
ほら、歴史なんてやっぱりくだらない。
細かいことなんて何一つわかりゃしない。
あんなのまやかしよ。


「そうか。俺の名は、
 お前の時代には残らないのだな」


「うん。ねぇ、教えて。あなたは一体何者なの?
 暁斉って名前も、偽名なんでしょう?
 あなたの本当の名前は?」


則暁くんに聞いた、暁斉の生い立ち。
双子として生まれて、そして次期当主にまで這い上がって来た
暁斉という人物。


本当の名前を聞いたら、誰だか分かるかもしれない。
そう期待を込めて聞いてみた。


暁斉は一瞬目を見開いてあたしを見つめ、
それから視線を落として口を開いた。


「俺の本当の名は、結城博仁。
 結城家の長子で信長公の家臣。
 俺の本当の名は則暁と他数名しか知らない。
 お前も知ったからと言ってこの名を呼ぶなよ」



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