真紅の空
芽吹いた恋
*
「ねえ、春日さん?どうしたの?」
はっと我に返って目の前にいる人物を見つめる。
あたしの息は上がっていた。
確かにあたしは走っていた。
あいつを探して、走っていた。
それなのに今は制服を着て、
あたしの教室の隅で立っている。
どういうこと?
また、自分の時代に帰ってきたの?
目の前であたしを心配そうに覗き込むクラスメート。
今まで無だったのに、一気に喧噪が戻って来た。
ああ、この感覚がもはや懐かしい。
戻って来たんだ。この場所に。
「大丈夫?具合でも悪いの?」
「大丈夫。なんでもない」
「そう?ならいいけど。
さっきの授業も完ぺきだったね、春日さん」
さっきの授業って?咄嗟に時計を見た。
今は十一時を少し回った頃。
というと時間からしてさっきの授業は英語の授業か。
あっちの時代にいた間の記憶はないけれど、
普通に過ごしているということ?
問題なく、あたしが存在しているっていうこと?
なら、あっちの時代でもあたしは存在しているの?
あいつを探して走り続けているのかしら。
「暁斉……」
はっとあいつのことが気になって、
あたしは教室を飛び出した。
階段を一気に駆け上がって図書室に向かう。
扉を思い切り開けると、えっ?と声を上げた。
「ねぇねぇ、暁って言うの?転校生?」
「よ、よせ」
「よせ、だって。かわいい」
「暁くん、何年生?」
目の前に広がる光景が瞬時に理解出来なくて固まる。
とりあえず、当たり前のようにその場に暁斉がいた。
しかも制服を着て。
でも暁斉だけじゃなくて、数人の女子に囲まれていた。
何で?何が起こっているの?