罪の果汁は甘い毒 完
歯が実を削るたびにしゃりしゃりと水気を含んだ景気のいい音が鳴り、咀嚼すればじゅわりと甘い甘い果汁が口内に広がる。
それを果実と共に飲み込んで、また齧りつく。口に入りきらなかった果汁が零れて顎まで伝い、それを手の甲で乱暴に拭えば一滴は腕を伝って濡らしていった。
まるで何かに取り憑かれたかのように、一心不乱に五十鈴は林檎にむしゃぶりついた。口元を果汁がべたべたに汚していくことにも構わずに、その赤い実を食べることだけに専念する。
そんな彼女の気を逸らしたのは、ピンポーンと軽快に響いたチャイムの音だった。それに気付くと彼女は食べかけの実をミニテーブルに置き、急いで手と口元を洗うと扉を開ける。
――そこに立っていたのは、先程まで彼女が脳内に思い描いていた男だった。
「……部屋に来るなんて、聞いてないわよ」
つんと顎を上げ、まるで挑発するように強気に彼女は相手を睨むように見上げる。彼はそんなことは気にせんとばかりに飄々とした態度で「とりあえず上げろ」と無理矢理彼女を押し退け部屋に入ってきた。
彼が来て嬉しいはずなのに、何故か軽い苛立ちと深い悲しみが混在した、複雑な感情が彼女を包む。
「行くとメールをしたはずだが?大方寝坊でもして携帯を確認してないんだろ」
「…ま、今日は確かにそうだけど」
「話をしに来た」