儚空--クライソラ--【完】
掴んだのは…一本の木の枝。
木の枝は地面から露骨に…いや、
無造作に生えている
今にも折れそうだ。
怖い。私、死んじゃうのかな?
下は凄く急だから、このまま滑ってゆくと骨が何本か折れる…っていうか、死んじゃうかも…。
助けて…
仁…
仁は勿論この場にはいない。
今頃、釣りをしている。
だから、頼りになるのは………
彼しかいない…!
「 あ…鮎川くんっ!」
声になったかならないかの小さな声で叫ぶ。
普通の人は気付くわけない。
…でも鮎川くんは気づいた。
後ろを振り向くと、
鮎川くんは私をみて驚いた顔をした。
鮎川くんは私の前まで走た。
急斜面だから勢いよく滑って、
私の近くまできて、
私に手を差し出す。
「 ほらよ。」
私は鮎川くんの手をつかむ。
手に力をいれて、鮎川くんの手を握って立ち上がる。
「 ありがとう。鮎川くんっ! 」
鮎川くんはそっぽ向いて
照れくさそうに、頭をかく。
「別に。 」といいながら。
鮎川くんは思ったよりも
心が温かそうだな。
先入観で決めつけるのはよくないね。
ごめんね、鮎川くん。
一人で鮎川くんをみてニッコリ笑った