儚空--クライソラ--【完】
ばさっ
じゅんの手からスーパー袋が落ちる。
仁の身体越しに見る彼は、目を丸くして、少し震えていた。
その音に気づいた仁は、ぱっと振り返り、私から身を離した。
「鮎川っ…! 」
仁は、じゅんのことを睨んで、ポケットに手を入れた。
「 あのさ、鮎川…話が…「 おいっ!!」
じゅん。
じゅんはありえないくらいに大きな声を出した。
私が聞いたことのないくらいに。
カーテンが閉まってなかったから、四人用の病室の他の患者さんと目が合う。
なにごとかと振り返る患者さんに一礼すると、私はカーテンを閉めた。
「 夢は…夢は俺の女だぞ?
何、手ぇだしてんだ、てめぇ。」
言葉こそ凶暴だけど、じゅんはそんな様子じゃない。
唇が震えて、下を向いている。
瞬きの回数が異常なくらいに多くて、額には汗がたらりと流れている。
なにか、動揺している。
息づかいも荒くなってる…
なにか、あったんだ。