儚空--クライソラ--【完】
じゅんは、崩れ落ちるように床に座り込むと、胸を押さえた。
「 おぃ…鮎川っ…!」
「 じゅん!!」
「 どうしたの? 」
私は前鏡になって、一生懸命じゅんに手を差し伸べた。
じゅんはその手に捕まろうとはせずに、ただ、なにかを言っていた。
その何かは聞こえなかったけど。
「 なぁ、鮎川!大丈夫か?」
仁くんはじゅんの肩を叩く。
またしても、震えて下を向いて瞬きをしている。
「 俺、看護師さんよんでくる」
仁くんはそう言って私に背を向ける。
「 うん! 」
「 いくなぁぁぁぁ!! 」
大きな声。
またしても叫んだのはじゅんだった。
仁くんは足をぴたりと止め、私たちの方へ引き返す。
「鮎川、どうした? 」
「やめてくれ。もうこれ以上、俺から大切な人を奪うなよ。なぁ?頼むからさ。お願いだから。
俺から…っ俺から… 幸せを奪わないでくれ…。 」
さっきのとは全然違った。
荒々しいけど弱い声。
泣いていた。
大きな体を震わせて…
「 話、聞こうか? 」
私がじゅんの顔を覗き込むと、じゅんは首を縦に振った。
「 今日は、屋外庭園がいいんじゃねぇか?
な? 」
優しい顔をした仁くんに車椅子を引かれ、私たちは屋外庭園へとやってきた。