儚空--クライソラ--【完】

前を向くということ

定食屋に着くと
私たちは席に座る。


先生は下を向いてまま、
顔を上げそうにない。


「悪い、咲田。お前は優奈じゃない。
なのに、優奈と重ねてしまう。
生きていたら…優奈は…。 」


「先生。話してくれてありがとう。
大丈夫。私は前を向くよ。
死なないから。 」

先生が悲しい顔をしている…。


私は、笑わなきゃ。
先生に笑顔になってほしいから。


「先生。この定食屋はトンカツ定食が980円なんだよ。知ってた?
この値段でご飯おかわり自由なの。
デザートはぜんざいなんだ! 」


「 おぉ。そうか。
他には何かないか? 」



「あとね!オムライス定食。
オムライスの中のチキンライスが超うまいの!サラダ付きで850円。

他にもね、あ!
この店で一番高い
しゃぶしゃぶ食べ放題は?
お値段、なんと3000円。おいしぃんだよ〜。 」


…って、私食べたことないんだけどね。


先生に笑ってほしかった。


定食の良さを伝えると、いつも通りニヤリと笑ってくれた。


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