熟女に魅せられて
「すいません、俺がやります」


祐樹もおしぼりを手にすると、一緒にテーブルを拭き始めた。


なんで美枝さんが横に? 
さっきまで離れた席に座ってたはずやのに、いつの間に?


美枝さんは上司の人たちにビールを注いでいる。


そうか、美枝さんは普段から、お偉いさんたちと飲みに行ったりしてるや、だからあの中に入って行けるんや。


不覚やった・・・ 


でも、美枝さんももうわかってるはず、剛彦と芳美さんのことは。
だからもう剛彦を誘うようなことはせえへんやろうけど・・・
この状況を見てるみんながどう思うかや。
変な風に噂がたって、芳美さんの耳にでも入ったら、そこで終わりや。
美枝さん、誤解されるような行動は慎んでくださいよ。


そんな祐樹の心配を裏切るように、穏やかな時間が流れる。


しかし二時間が経とうとした頃、美枝さんに不穏な動きが見え始めた。
剛彦と美枝さんお距離がぐっと縮まっている。


おいおい美枝さん、何やってるね?
胸とか当たってるんちゃうんか?


美枝さんはトロンっと甘い目をしながら、剛彦にもたれ掛かり、見えないテーブルの下で、手がゴソゴソと動かしている。


ヤバい! 

あんなことしたら剛彦が!


きっと剛彦も上司に飲まされていい感じに酔っている。
このままやとまた、美枝さんの誘惑に負けてまう! 
なんとか美枝さんを離さんと!

と、思った瞬間、剛彦はそっと美枝の手を自分の許から離した。


そして、ニコッと微笑みながら、その手を美枝さん自身の膝の上に置くと、何事もなかったかのようにビール瓶を手にし、上司のグラスへとビールを注いだ。




< 220 / 291 >

この作品をシェア

pagetop