夕焼け模様
笑顔
「…さく、さくっ」
彼の声でふと我に返ると、先程の少女が伝票とペンを持って此方を見詰めていた。
「ご注文はお決まりですか?」
邪気のない、純粋な微笑で言われ頬が熱くなる。
昔のことを思い出してメニューを見ていなかった私は、少女が去る前に告げたおすすめを頼んだ。
「はい、『茸と筍のテリーヌ』をおふたつですね」
素早くペンを動かす姿はおよそ見た目とは違っていて私は唖然とする。
「彼女、高校生みたいだよ?…お姉さんがこのお店のオーナー兼店長で、今日は恋人さんとお手伝いしてるんだって」
私の心を読んだかのように告げると、少女が運んで来たのであろうお冷やを飲む彼。彼は半分ぐらいまで水を飲むと、ことりとコップを置いた。
「へぇ…」
昔から人とコミュニケーションをするのが得意な彼は、職場でも持ち前の明るさで同僚達を支えて来た。
「…やっぱりあきはすごいね…」
呟いた声は彼に届かず、晴天の中に消えた。