北十字学園探偵部
真夏が笹のざわめきのように、近づいてくる。
じゃり道には壁や木が影を投げ、白黒写真のように世界を真っ二つに切り裂く。
私の胸のようだ。

光と影が心に去来する。
夏の夕方は静かだ。私は孤独の世界を旅する。

田んぼ道を歩く。カエルがオペラを歌っている。

もう少し寄り道をしよう。
沈み始めた太陽が、夜と力くらべをしているように、真っ赤に燃える。

カエルたちの舞踏会から少し離れ、森の道を歩いた。涼しい。

私の一歩後から私の影は走りだし、私を追い抜いてゆく。そしていつの間にかまた後ろに戻り、また私を通り越す。

森を抜けると、高速道路の脇に出た。
まだ陽がある。

蝉時雨が今夜ばかりと、盛大な盛り上がりをみせる。

高速道路の車は黙々と走り、誰も道になんて迷ってはいない。

立ち止まっているのは私だけなのかもしれない。

陽が傾き、太陽はもうあとほんの少しで、使い切る直前のチョークみたいに小さくなっている。
私は太陽に小指を重ねた。
一分も経たないうちにオレンジ色のチョークは黒板に消えていった。

数分後、一等星が光だした。
自分の居場所を教えているかのように、かすかに震えている。

空の舞台は今、青い舞台から黒い舞台へと変わり始めた。

役者の月は鋭く輝き、取り巻きの星も勢いを増してきた。

もう足元に影はない。どこかに旅立ってしまったのだろう。主である私を置き去りにして。

私は家に帰ると、ベッドにドサリと倒れ、窓から顔を出した月を見ていた。
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