まんまと罠に、ハマりまして
課長が、私を大切に扱ってくれてるのが分かるから。
少しでも課長の希望に、応えたいなって。

職場では怖い上司の振りをしてるだけで。
ほんとは優しい人。

だから。


「…職場でも。素で接したらどうですか?」
「え?」


ここに着くまでの道のり。
ちょっと…、や、かなりドキドキしながら、思いきって課長に切り出してみた。


「振り、ですよね?怖いの…」


…と。


「振り、に見えるか?」
「今は、そうかなって。優しいって、分かってるので」
「俺、優しい?」
「優しいですよ、すごく!だから、みんなもほんとの上條さん知ったら、もっと変わるんじゃないかなって」
「和やかに?」
「それもありますけど。怖がられるより、上條さんも仕事しやすくなりませんか?」

言って。
言ってしまってから。

あ、ちょっと偉そう?
上からっぽかった?

ドキドキしたけど。


「そうかもな」


私の緊張に気づいてか。
ふっと口角を優しく上げてから。


「でも、難しいかな…」


苦笑いを浮かべた。


「今さら、だからですか?」
「んー…。まぁ、それもあるけど。術、だからかな」
「術?」
「ん。なめられないための」


なめられない。
聞いて。

や、


─誰も出来ないって!


思ったけど。
もちろん、口に出来るはずもなく。
そんなに私に、課長は静かに話してくれた。
"術"の事を。

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