夜更けにチョコレート


アイツは気づいてる。
俺の存在に。



振り向く素振りはないけれど、確信していた。



ひんやりとした空気に体を押さえつけられるような、息苦しささえ感じながら。吐く息が白く舞い上がる向こう側には、俺のターゲット。



すっかり夜の闇に沈んだ住宅地。道路脇に並んだ街灯の灯りが、アイツの背中を浮かび上がらせる。



俺よりも拳ひとつ分ほど低い頭に、焦げ茶色の髪をふわりと揺らして。ゆっくりとした足取りは、水の上を渡るようにしなやかに。



一見すると華奢なように見えるが、俺は知っている。アイツが羽織ったダウンジャケットの中に、鍛えられた体を隠していることを。



時折、アイツの肩が不自然に揺れる。
交差点に近づくたびに、どこからか話し声が聴こえるたびに、車が近づいてくるたびに。



危険要素を察知するたびに、アイツはダウンジャケットのポケットに突っ込んだ手に力を込める。



何かを警戒しているんだろ?



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