夜更けにチョコレート


ふたりに背を向けて、駅の方向へ。



駅からまっすぐ延びる通りに出ると、街灯の色が変わり明るさを増す。商店や雑居ビルが並んだ景色に寂しさは薄らぐが、時刻が遅いから人の姿は疎らだ。



通りに出て間もなく、一階に店舗の並んだ五階建てのマンションが目に留まる。ここの二階が、リョウの部屋。真下の花屋はとうに閉店している。



仕事をするには好都合だ。



鍵なんて、俺には必要ない。
ほんの数秒で部屋の中へ。



さっきまで彼女といた部屋の中には、まだ温もりが残っている。ふたりで食事をしていたのだろう。はっきりと匂いが感じ取れる。



カーテンの隙間から差し込む街灯の明かりが、部屋の中を照らし出している。



テーブルの上には、小さな紙袋。黒い色の艶っぽい素材がわかりやすい。間違いなく、彼女から贈られたもの。
今日はバレンタインデーだ。



まったく、うっとおしい。
俺の部屋にはない、この生活感が。



ぐるりと部屋を見回したら、溜め息が漏れた。



さて、どこで待とうか?





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