【完】こいつ、俺のだから。
「待って」
だけど先輩は、逃がしてくれなかった。
あたしに追いつき、あたしの腕を掴んで逃げ道を阻む。
あとちょっとで、出口だったのに。
手が届きそうだったのに、また迷子になりそうだ。
「仁菜、聞いて」
心の中で、自分の気持ちがわからなくて、揺らいで揺らいで、迷子になる。
そこからずっと出られなくて、ひとりぼっちで、さまよい続ける。
「俺、まだ仁菜に言ってないことあったよね。
あのときのこと……」
〝あのとき〟。
その言葉に、胸がドクンと音を立てた。
渦巻くようにそこに溺れて、もう這い上がれないような……。
もう笑い方すら忘れてしまいそうな、辛い別れを思い出す。
やっぱりあたしは、出口を見つけられそうにない。
すぐそこに扉はあるのに、手を伸ばしても届かない。