貴方を忘れない



「…うーん。」





困らせたかったわけじゃない
こんな事、言うつもりはなかった。
なのに
ついて出た言葉は
歯止めも理性もきかずに溢れる。









「お願い。そしたらもう絶対、ワガママ言わないから!」
「でもなぁ…」
「帰りたくないよ…離れたくないよ…足りないよ…」









しゃくり上げて泣く私に

「おいで?」

と彼が腕を広げた。









彼の胸に頬を当てて寄りかかると
彼は、黙って
私の頭を撫でてくれて
それすら悲しくて、どうしようもなくて
ただ泣き続けるしかできなかった。









「ごめんな。でも絶対また会いに行くから。」









返事もできないで
私は泣き続けた。
心の中で何度も「1日だけな」って
言ってもらえるように祈った。

その言葉が出てこないのを確信して
更に泣けてきて


どうしようもない空虚感と
体が千切られるような痛みとで
私にはもう
その、明日から離れ離れという事実を
受け止める術もなかった。





今なら
私が我慢すれば良かっただけだって
分かるのに。
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