ギュットバレンタイン!
タイトル未編集
ギュットバレンタイン!



「あれ、ハルミ今日はバレンタインだよ、ひとりでお帰り?」


同じ町内会で子供の頃から顔なじみ、同期入社のユウタが駅へ向かう歩道で並びかけながら声をかけてきた。



「そっちこそ、たくさんチョコ持って、ひとりで直帰ですか?」
ハルミは、からかうように答えた。



「あ、これね。これは全部軽い気持ちの友チョコってやつらしいよ・・・」
ユウタは、手に下げているチョコの詰まった紙袋を軽くさし上げてみせた。



「そう思ってるのはユウタだけかもよぉ~、表向き友チョコとか云いながら、本気チョコ渡す娘は多いんだから!」



「そういうハルミも、目当ての相手に友チョコとか云って、本気チョコ渡したわけか?お前、誰が本命なんだ、俺だけにそっと云ってみな~。なんならうまく後押ししてやってもいいぜ!」



「マジ?云ったら、二人の仲を取り持ってくれるの?」



「もちろん、同じ町内会のよしみで、力を貸すぜ!」



ふたりは肩を並べ、冬の夕闇の寒風の中を歩いている。



「でもなぁ、ユウタの口添えじゃ、イマイチ心配だなぁ・・・」



「そんなことないって、云ってみろよ!相田君?それとも営業係長の安田さんか?」



「なにそれ?わたしって、そんな噂あるわけ?」



「いや、今のはおれの完全な当てずっポ・・・」


「変なコト言わないでよね!もぉ~。わたし相田君とは親しいけど、それはそういう意味の親しさじゃないし、安田係長って妻子持ちでしょ!そういう趣味もないから・・・」

ハルミは、早口で不機嫌そうに斜めに軽くユウタを睨みながら言い放った。




数秒の沈黙の後、ユウタは女子社員達からもらったチョコの詰まっている紙袋の口を開いて、おどけるようにハルミに差し出しながら云った。
「おいミハル!」



「なに?」



「俺のチョコは?」



「ゴメン、ユウタのは買ってないや!」



「最初から、期待はしてなかったからいいんだけどよぉ、不思議なもんだぜ。ホントに欲しい相手からはもらえないんだよなぁ・・・バレンタインのチョコってな!」



「それって云えてるね!だってさ、ホントに好きな相手には、怖くて渡せないもん」




「おい、ハルミ、俺のチョコは?」



「だから、云ってんじゃん!ホントに好きな相手には怖くて渡せないって・・・」



「ハルミ・・・」


「何さ?」




「俺と、付き合ってくれるか?」



「いいよ、チョコレートひとつで手を打つよ!」



「そっか、じゃぁ、これから一緒にチョコを買いに行くか?」



「うん」



ユウタは、ハルミの掌をギュット掴んだ。


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