リトライ。


ゆっくりと私の元に転がってきたボールは私の足にぶつかって動きを止める。


「すみません、取ってもらえますか?」


高めの彼の声は静かな体育館に響いた。


無意識にそれを拾いあげて持ち上げる。

中学の時より少し大きいけれど、その形が、その肌触りが、私の胸をドキドキさせた。


久しぶりに触れたボールは温かかった。


前は毎日ボールに触り、練習していたのに。
今はもう、触れたくないバスケットボール。

それでも身体はいつまでも、この時の記憶を覚えてる。


「あの、」

「あっ、すみません……」


彼の言葉に我に返った私は顔を上げると、そのまま彼に向かってパスを出した。


パシっ、という音を響かせてボールは彼の手の中にキレイに収まっていく。


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