リトライ。



「……っ、」


『沙奈、ナイッシュー』


ボールに触れれば触れるほど、思い出す。


ああ、これだと感触を確かめるように触れた手のひらがむずがゆい。


走りたい。
もっと、ボールを触っていたい。


押し込めた気持ちは蘇る。

あの感触。
あの時の記憶。

がむしゃらにバスケをしていた日々。


無理矢理にフタをしたあの日。
涙を流せていたら何か変わっただろうか。


ううん、変わらない。
きっとそうなる運命だった。

心から溢れてしまうのが嫌で、私は彼にボールを投げると背中を向けた。



「あ、おい……どこ行くんだよ」


大っ嫌いだよ、バスケなんて。
もう2度としたくない。


「私……もう帰るから」

「ちょっと待ってよ」


そう言って帰ろうとすると、彼は私を引き止めた。


ーーぎゅ。


「なんでよ、まだいいじゃん」


突然手を掴まれぐらりと視界が揺れる。

彼の真っ直ぐな目がこっちに向けられていて、居心地が悪くて目を逸らした。


「あのね、言ってなかったんだけど私……本当はバスケが嫌いなの」



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