リトライ。



私は怒鳴りつけるとぐっ、と力強く手を握った。


今日は会ったばかりの人に、こんなに感情を出したのは初めてだった。

だけど、図星を突かれたからカッとなったわけじゃないと心に言い聞かせる。

私に起きたこと、知っていればきっと好きだろうなんて言うはずもない。


もう一度、背中を向けようとした時、彼は静かに言った。


「確かに知らないな、沙奈のこと……バスケ好きだってこと以外は」


優しい声で、もう一度言う。


「教えてよ、だったらさ。俺は沙奈のことが知りたい」


ぐっ、と気持ちを抑えながら、私は何も言わずそのまま体育館から出て行った。


「待てよ、沙奈」


後ろで私を呼ぶ声がする。


知らない。
もうきっと話すこともない人だ。

私には関係ない。


『沙奈、もう私は無理だよ……』



ドク、ドクと鳴り出す心臓。
蘇る手の感触。

思い出せば、辛い記憶ばかり。







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