リトライ。



俺が話している間、

彼女は目を逸らさずに黙って聞いていた。


「沙奈さ……一生懸命やっても意味なかったって言ったじゃん。


でもさ意味のないことなんてないと思うんだ。

だって……その一生懸命にやっていた時間が、バスケが大好きだったことを教えてくれたんだから」


伝わればいい、思い出せばいいなって思う。

だって彼女も絶対にバスケが好きだから。


苦しいところで足踏みしている。

そこから救ってあげたいと思う。


俺はまっすぐに彼女を見つめてから言った。



「……1週間後の放課後、体育館で待ってる。

俺は沙奈がもう一度、バスケをするところが見たい」


その言葉を残して、俺たちは別れた。


それから1週間。

俺たちは一度も話すことは無かった。


ただ、自分の言葉が伝わっていることを信じて待っていた。


放課後の体育館。

ダム、ダム、と虚しくドリブル音が響いている。


「やっぱり来ねぇか……」


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