リトライ。



今日は職員会議で体育館が使えないため、たったひとりでコートにいた。


大きくて広いこのコート。

ひとりであることを思い知らされる。


「ダメだったか……」


沙奈は来なかった。


”もう一度”

はそう簡単に出来ることじゃない。


一度無理だと思ったら尚更だ。


踏み出したくてもやっぱりどこかで思い止まってしまう。


「仕方、ないか……」


寂しくボールをついてシュートを打っていたその時。


ーーガラガラ!

突然、体育館のドアが空いた。


教師が入って来たのかと思い、焦って隠れようとしたが、

そこにいたのは教師では無く沙奈だった。


「沙奈……」


何か握りしめて、決意したような強い眼差しを持っている。


そして彼女はうつむきながら小さな声で言った。


「来てって言ったから……」


消え入りそうな声。

俺はそれを黙って見つめる。


「何か感じたなら来てって言うから、来た」

「沙奈……」


「1on1した時、負けたのが悔しかった」


ぎゅっ、と唇を噛み締めて俺を見る。

その姿に心臓を掴まれた。



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