リトライ。



陽介はみかんが入っているアイスを買ったらしい。


「じゃあ、改めて……沙奈の入部に乾杯」


そう言って、棒付きアイスを上に持ち上げる。


私も控えめに持ち上げると、彼は楽しそうに笑った。


よく、笑うんだ。
陽介って。

その笑顔が人の警戒心を解いていく。

陽介の表情をまじまじと見ていたら「溶けんぞ」なんて言って、左手で私の頭をポン、と叩いた。

薄暗くなっていった空に少しの街頭が彼を照らし私の心臓がドキ、と強く音を立てる。


陽介は色んな表情を見せる。

試合の時の真剣な表情や、悔しそうな顔、こうして無邪気に笑う顔。


まだ少ししか彼を知らないのに、こんなにも色んな表情を知ってる。


私にとって不思議な存在だった。

きっと、そういうところにも勇気をもらったんだと思う。


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