雫光
撫でるなど、もってのほかだ。
普通の人なら、十中八九殺されているに違いない。

(主だからできることだな。)
黎明は思った。
「三人で弾正に会おう!」
「やれ、我も頭数に入れやったか……」
(一体、いつの間に……)
大和御前に黎明は呆れた。

しばらくすると、異様なまでに暗い部屋に着いた。
昼間だというのに、全く光が入らない。
壁も何もかも全てが真っ黒だ。
“ばんっ!”
そんな部屋の襖を大和御前は元気よく開けた。
「……だれか、いるの?」
すると、少女の声がした。
「あっそぼー!!」
大和御前は部屋の中に入り、襖を開けたままで言った。
奥の方に僅かに少女の影が見える。
少女は怯えているようだ。
「御前。」
黎明は大和御前の腕を掴んだ。
「そうはしゃぐな。怯えておる。」
そして、少女の目の前に座った。
「怯えるな。ぬしに害は与えぬ故。」
黎明は優しくそう言いながら、少女を見た。
「あなたは……だれ?」
「我は……か……」
その言葉に黎明は少し悲しげに笑った。
「我は市川主計頭黎明。そして、はしゃいでおるのが」
「大和御前ですっ!」
少女の問いに大和御前は黎明の隣に座って答えた。
「ちなみに、後ろにいるのが和泉治部大輔就友!」
大和御前が就友を見ると、就友は少女を少し見た後に興味なさそうに外を見た。
「わたしは……常磐弾正弼嘉生。」
少女はそう名乗った後、不思議そうに大和御前を見た。
「どうして、ここにきたの?」
「遊ぶために決まっているじゃん!」
大和御前に常磐は目を丸くした。
「行こ!」
そんな常磐の手を取り、大和御前は外に行く。
「やめて……」
頼りない細い声音で抵抗するが、大和御前は止まらない。

やがて、常磐の白い顔を光が照らした。

「真っ暗より、明るい方がいいよ。」
「ひか……り…………」
常磐はその眩しさに目を細めた。
「!!」
そして、何かを見つけたように天に向かって手を伸ばした。

「————様。」

誰かの名を細い声音で呼ぶ。

常磐の目から涙が溢れた。

「いか……ないで……」
「常磐弾正」
「いや……いやぁあああああっ!!」
呟く常磐を黎明が呼ぶと、常磐は突然、泣き叫んだ。
「ひとりにしないで……行かないで……置いてきぼりは嫌!!連れて行って。」
そう手を伸ばして叫び、縁から身を乗り出した。
このまま、下へ落ちてしまいそうだ。
「嘉生!!」
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