雫光
大声で泣き喚く常磐に周りの者達は何も出来なかった。
「今となっては、昔の記憶も何もない。言うなれば、ただの抜け殻のようなものよ。」
黎明は薄く苦笑した。
「此奴も所詮は人の子。情には敵うまい。」
黎明はそう言って、就友を見た。
「ぬしとて、主を喪えば同じようになるであろ。」
「……さぁな。」
就友は大和御前を見た。
「死なせはしない。絶対に。」
「頼もしい限りだね!うん。苦しゅうないぞ。」
大和御前は明け透けに笑った。
「それにしても、弾正は何で閑散したところだったんだろうな?」
大和御前は不思議そうな表情をした。
「……身重だったのだ。」
「!」
「戦から逃げるは愚だと考える奴だ。それでも戦うと言うのは目に見えていた。だから、わざとそうしたのだ。」
黎明はそう言いながら常磐を見た。
「こやつが生んだ子は我の養子となった……まぁ、こやつには記憶がないゆえ、知らぬことだが。」
「自分の子すら分からないのか?それでは、子が不憫ではないか。」
「致し方ないことよ。」
大和御前に黎明は諭すように言う。
「主計頭が何故、こいつから養子などを?」
「こやつは我の幼なじみ……一時は恋仲とも言われた仲ゆえな。」
就友に黎明は昔話をするかのような口調で言う。
「だからと言って、面倒を引き受けることはないだろう。」
「いや。我が決めたことよ。」
黎明はそう言って常磐の頭を撫でた。
「松戸治部が死んだ時……我には何も出来なんだ。」
「埋め合わせのつもりか?」
「さよう。」
就友に黎明は自嘲気味に笑った。
「放っておけぬのよ。こやつを。」
「力になりたいのか?」
「あぁ。」
首を傾げる大和御前に黎明は頷く。
「優しいな。」
「我はそのような人間に非ず。ただの……無力な者よ。」
黎明はそう言うと、就友を見た。
「ぬしなれば、もっと良い策が浮かんだであろうな。」
「どうだかな。」
就友は友の顔を真っ直ぐと見据えた。
「おれなら、養子など貰わぬ。子は親といるべきだ。」
「例え、その親の一方はこの世におらず、もう一方は心と記憶が壊れていても、か?」
「いないよりは増しだ。」
黎明に就友は言った。
「……おれが子ならば、そう思う。」
就友は目を伏せた。
脳裏に過去のことが浮かぶ。
幼い手を強引に引っ張り、連れ出す大人。
訳も解らず、泣き叫びながら足を動かした。
「……」
「今となっては、昔の記憶も何もない。言うなれば、ただの抜け殻のようなものよ。」
黎明は薄く苦笑した。
「此奴も所詮は人の子。情には敵うまい。」
黎明はそう言って、就友を見た。
「ぬしとて、主を喪えば同じようになるであろ。」
「……さぁな。」
就友は大和御前を見た。
「死なせはしない。絶対に。」
「頼もしい限りだね!うん。苦しゅうないぞ。」
大和御前は明け透けに笑った。
「それにしても、弾正は何で閑散したところだったんだろうな?」
大和御前は不思議そうな表情をした。
「……身重だったのだ。」
「!」
「戦から逃げるは愚だと考える奴だ。それでも戦うと言うのは目に見えていた。だから、わざとそうしたのだ。」
黎明はそう言いながら常磐を見た。
「こやつが生んだ子は我の養子となった……まぁ、こやつには記憶がないゆえ、知らぬことだが。」
「自分の子すら分からないのか?それでは、子が不憫ではないか。」
「致し方ないことよ。」
大和御前に黎明は諭すように言う。
「主計頭が何故、こいつから養子などを?」
「こやつは我の幼なじみ……一時は恋仲とも言われた仲ゆえな。」
就友に黎明は昔話をするかのような口調で言う。
「だからと言って、面倒を引き受けることはないだろう。」
「いや。我が決めたことよ。」
黎明はそう言って常磐の頭を撫でた。
「松戸治部が死んだ時……我には何も出来なんだ。」
「埋め合わせのつもりか?」
「さよう。」
就友に黎明は自嘲気味に笑った。
「放っておけぬのよ。こやつを。」
「力になりたいのか?」
「あぁ。」
首を傾げる大和御前に黎明は頷く。
「優しいな。」
「我はそのような人間に非ず。ただの……無力な者よ。」
黎明はそう言うと、就友を見た。
「ぬしなれば、もっと良い策が浮かんだであろうな。」
「どうだかな。」
就友は友の顔を真っ直ぐと見据えた。
「おれなら、養子など貰わぬ。子は親といるべきだ。」
「例え、その親の一方はこの世におらず、もう一方は心と記憶が壊れていても、か?」
「いないよりは増しだ。」
黎明に就友は言った。
「……おれが子ならば、そう思う。」
就友は目を伏せた。
脳裏に過去のことが浮かぶ。
幼い手を強引に引っ張り、連れ出す大人。
訳も解らず、泣き叫びながら足を動かした。
「……」