雫光
「松戸治部が此処に居たならば、と思う程に悲しい姿じゃ。大和は、そこから救いあげたいのじゃ。出来ることなど、知れておるが。」
「貴方は甘いのです。」
就友はきっぱり言った。
「優しきこころよな。」
黎明は就友の言葉には同調しない。
就友もまた、こう思っているのだと知っていた。
「御前は治部だけではなく、弾正も救おうとしている。」
「そんな力もないくせに。」
黎明の言葉を遮って就友は言う。
「治部。」
そんな就友を黎明は見る。
「ひとりの人間がそのように都合良く何人も救えるものか。」
「然様な。だが、ぬしが救われたことは間違いではないであろう?」
「……」
就友は外に目を遣った。
(……ひかり。)
僅かに開かれた襖の外は眩しかった。
「常磐も、そうであればいい。」
「なんじゃ?やはり、惚れておるのか。」
「そのような問いは無粋というものよ。」
大和御前に黎明は笑った。
「……ん。」
眠っていた常磐は目を開ける。
「お!目を覚ましたか。」
「………あなた、は」
「そんな怯えるな。大和は遊びたいだけじゃ!」
「やま、と……」
常磐は大和御前を見る。
「………そう。……あなたからは、太陽のにおいがするわ。」
「そうか?」
大和御前は首を傾げる。
「いやか?ならば、梅の香を焚こう。」
「ううん。いやじゃない。」
常磐は首を振る。
「でも……とても、なつかしい。梅……も、なつかしい。」
脳裏に嘗ての姿が一瞬だけ浮かんだ。
光頼の姿と、梅の香。
『梅が咲く頃に、二人で遠出しよう。』
そう言いながら渡した。
それが現実にはならなかった。
「……かなしい、におい。」
ぽつりと呟いて泣く。
「大和もな、悲しいことはたくさんあった。こんな世の中じゃからな。」
大和御前は真っ直ぐに常磐を見る。
「失うのは悲しい。じゃが、ひとりはもっと悲しい。だから、常磐もひとりにはしたくないのじゃ。大和を呼べば、いつでも遊ぶぞ!」
「……ほんとう?」
「信じよ。」
「……うん。」
常磐はにっこりと笑った。
「では、百人一首でもしよか!……歌留多の方が良いか?坊主めくりでもいいぞ!」
就友と黎明の方を見て言う。
「おれはしませんよ。」
「むー!!」
就友に大和御前は膨れっ面をした。
「かるた……きらい?」
常磐は首を傾げる。
「馴れ合う気は、な」
「治部。」
「………」
「貴方は甘いのです。」
就友はきっぱり言った。
「優しきこころよな。」
黎明は就友の言葉には同調しない。
就友もまた、こう思っているのだと知っていた。
「御前は治部だけではなく、弾正も救おうとしている。」
「そんな力もないくせに。」
黎明の言葉を遮って就友は言う。
「治部。」
そんな就友を黎明は見る。
「ひとりの人間がそのように都合良く何人も救えるものか。」
「然様な。だが、ぬしが救われたことは間違いではないであろう?」
「……」
就友は外に目を遣った。
(……ひかり。)
僅かに開かれた襖の外は眩しかった。
「常磐も、そうであればいい。」
「なんじゃ?やはり、惚れておるのか。」
「そのような問いは無粋というものよ。」
大和御前に黎明は笑った。
「……ん。」
眠っていた常磐は目を開ける。
「お!目を覚ましたか。」
「………あなた、は」
「そんな怯えるな。大和は遊びたいだけじゃ!」
「やま、と……」
常磐は大和御前を見る。
「………そう。……あなたからは、太陽のにおいがするわ。」
「そうか?」
大和御前は首を傾げる。
「いやか?ならば、梅の香を焚こう。」
「ううん。いやじゃない。」
常磐は首を振る。
「でも……とても、なつかしい。梅……も、なつかしい。」
脳裏に嘗ての姿が一瞬だけ浮かんだ。
光頼の姿と、梅の香。
『梅が咲く頃に、二人で遠出しよう。』
そう言いながら渡した。
それが現実にはならなかった。
「……かなしい、におい。」
ぽつりと呟いて泣く。
「大和もな、悲しいことはたくさんあった。こんな世の中じゃからな。」
大和御前は真っ直ぐに常磐を見る。
「失うのは悲しい。じゃが、ひとりはもっと悲しい。だから、常磐もひとりにはしたくないのじゃ。大和を呼べば、いつでも遊ぶぞ!」
「……ほんとう?」
「信じよ。」
「……うん。」
常磐はにっこりと笑った。
「では、百人一首でもしよか!……歌留多の方が良いか?坊主めくりでもいいぞ!」
就友と黎明の方を見て言う。
「おれはしませんよ。」
「むー!!」
就友に大和御前は膨れっ面をした。
「かるた……きらい?」
常磐は首を傾げる。
「馴れ合う気は、な」
「治部。」
「………」