星の音 [2014]【短】
 ― カランカラン……


「あ、すみません」


ドアを開けると、店先にいた女性が慌てて頭を下げた。


「もしかして、傘をお持ちじゃないのかしら?」


彼女のコートや髪は濡れていて、バッグには雫が滑っている。


「あ、はい……。でも、営業妨害ですよね。すぐに退きますから……」


「あぁ、違うの。もしよろしければ中へどうぞ」


「え?」


「冬の雨は冷たいですから、コーヒーでも飲んでいって下さい」


ニッコリと微笑む私に、女性は目を小さく見開いた。


「別に怪しい者じゃありませんから、安心して下さい。ただ、そこじゃ濡れてしまうでしょう?」


「でも……」


店先には屋根はあるけど、雨宿りに使うには心許無(ココロモトナ)い。


それを懸念する私を、女性が戸惑いを浮かべた表情で見つめた。


「家はこの近所ですか?」


「あ、はい。歩いて10分くらいです」


「じゃあ、少ししても雨が止まなければ傘を貸して差し上げますから、とにかく中へどうぞ」


「……すみません。じゃあ、お言葉に甘えて」


ようやく笑みを浮かべた女性を、笑顔で店内に促した。


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