星の音 [2014]【短】
しばらく談笑しても雨が止む気配は無く、女性に傘を貸す事にした。


「傘、取って来ますね」


「はい。すみません」


「いいんですよ」


申し訳なさそうな女性に笑みを向け、マグカップとコーヒーカップを持ってバックヤードと呼ぶには大袈裟なスペースに入った。


シンクに二つのカップを置き、ビニール傘を手にする。


急な雨の時にお客様に貸し出せるように置いてあるそれは、今日でようやく二回目の出番だ。


そんな事を考えながら女性の元に戻ると、スマートフォンを見ていた彼女がため息をついたところだった。


「……どうかしましたか?ため息なんてついて」


思わずそう訊いてしまっていたのは、その横顔が悲しげだったから。


性格上、お節介だとわかっていても放っておけなかった。


ただ、初対面の人間(ワタシ)に事情を打ち合けるかどうかは、女性(ホンニン)次第。


「すみません、変なところをお見せしてしまって」


「それは構いませんよ。それに、別に詮索するつもりもないんです。ただ……」


無理に訊き出したくなかった私は、そこまで話してから女性を真っ直ぐ見つめて微笑んだ。


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