意地悪な君に





駅に着いても、電車に乗ってもお互い何も話さなかった。


もうすぐ家に着いてしまう。
今日はまだ帰りたくない、まだ話したい。



美晴の最寄り駅で降りて公園の前を通ったとき、俺は思い切って美晴に言った。



「ちょっと、寄っていかね?」



ちょっと突っ走りすぎか?と思ったけど、意外にも美晴は笑顔で答えてくれた。

やっぱり、俺の気持ち、伝わってるんだよな…。




小さな噴水の前にあるベンチにふたりで座る。



「ここ、毎朝千紗と待ち合わせしてる公園なんだー」

「へぇ、仲良いんだな。小さい頃から仲良かったのか?」



いつの間にか敬語の消えた美晴に、また距離が縮んだと実感する。



「ううん、家は近いんだけど小学校は別だったから中学からだよ」

「え、そうなの?」



生徒会室に初めて橘が来た日、橘に言われた事を思い出す。
あいつは、俺と美晴に昔あった事を知っていた。


何で知ってるのかは教えてくれなかったけど、てっきり当時仲良かったのだと…


どうやら俺の気持ちも知っているようだけど…


一体何でだ?
橘はどうして昔の事を知ってたんだろう?


美晴がいつまで俺を覚えてたのかはわからないけど、中1ならまだ覚えてただろう。


ありそうなのは、美晴から直接聞いた、って事くらいだけど、本人が忘れるような事を橘が今まで覚えてるのも妙だし、話を聞いただけの橘が俺を見て気付くもんだろうか…



「悠先輩?」



美晴に呼ばれて我に返った。



「ああ、ごめん…」



だけど、気になる。
橘はどこまで知っているのか…


美晴に余計な事を話してなければいいけど。


また思考にトリップしてしまった俺に、美晴は心配そうな視線を向ける。



「悠先輩、やっぱり今日は変ですよ…」

「あのさ、橘って中学の頃…」






「また千紗…?」

「え?」



呟いた美晴の声は俺には聞き取れなかったけど、次の一言はハッキリ言った。




「私、帰ります。」


美晴はベンチを立つと、一度も俺を振り返らず公園を出て帰ってしまった。




~Boys side~ END




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