意地悪な君に



包みから出てきたのは、小さな缶だった。

手のひらにすっぽり収まるサイズのその缶には、可愛いクマの絵が描いてある。

美晴らしい、可愛いチョイス。



「どうかな…?」



美晴は僕の反応が気になるのか、僕の顔を不安そうに覗き込む。

そっとクマの付いた蓋を開けると、中には小さな飴が沢山入っていた。



グリーン、ブルー、ピンク…
色とりどりの小さな飴は、キラキラと光る。



「美晴、ありがとう!すごく美味しそうだし、このクマも可愛いね!すごく嬉しいよ!」



あぁ良かった、と美晴は笑顔になる。


「そのクマさんね、私が好きなキャラクターなの!ゆーにぃは男の子だから、ちょっと可愛いすぎるかなって思ったんだけど…」


確かに、もうすぐ中学生の僕にはちょっとどころかかなり可愛すぎる。

でも、美晴からのプレゼント。
嬉しさが数倍上回ってる。



「ううん!僕もクマは好きだよ。飴食べても缶はずっと大切にするね」



すると、今まで美晴と僕を見守っていた美晴ママが、悪戯っぽく笑って言う。



「良かったわねー美晴。昨日の夕方突然プレゼント探すなんて言って二人で走り回ったもんねー」

「ママ!!」



どうやら秘密だったらしいその事をバラされて、美晴は真っ赤になっている。


そうだよな。
誕生日を知ったのが昨日の夕方だもん。


あの時間から、プレゼントを探し回って、ケーキを焼いて、部屋を飾り付けて…………



すごく、大変だっただろうな…



「美晴…ありがとう。美晴ママ、俊くん、ありがとう…」



心からの感謝の気持ちは、いくら言葉にしても足りなくて。

僕が気持ちを伝える言葉を見つけられずに戸惑っていると、にっこり微笑む美晴ママが僕に優しく語りかけた。



「人は成長と共に、貰う愛も増えるのよ。
パパやママとはまた違う形の愛をくれる人が、これから沢山現れるわ。
美晴はゆうくんの、最初のそういう人になれて光栄ね」



全員が、静かに頷いた。
美晴ママの言葉は難しかったけど、何故だか意味は理解できた。

僕はまだ難しい事はわからない。けど、ただ一つはっきりしている事。



美晴は、僕にとって特別な人――――



だからこの想いを大切に、まだまだ時間は沢山あるんだから。

美晴にどれだけ大切に想っているか、いつか伝えようと思った。




――――それからケーキを食べて、みんなでゲームをして、僕は最高の誕生日を過ごした。



美晴がくれたクマの缶は、僕の宝物になった。

美晴の誕生日には、僕が沢山愛をあげよう。

たった1日で、今までの幸せを塗り替えてしまうほどの愛を。






でも…………

そんな日が来ない事を、僕はまだ知らなかった――――






< 123 / 156 >

この作品をシェア

pagetop