意地悪な君に



柳君の言葉に背中を押された訳じゃない。

だけど、


「ありがとう、行ってくる!!」


私は走った。


オレンジ色の夕陽が差し込む廊下。
埃っぽい階段。

思い切り走ったら、あっという間に生徒会室に着いた。


なんだ。
あんなに遠く感じていたこの部屋は、こんなに近かったんだ。



久しぶりの生徒会室にドキドキしながら、私はコンコンとドアをノックした。


こんな風にかしこまってノックした事なんて無かったから、今まで感じた事のない緊張が私を包む。



少し間があって、「はい」と悠先輩の声。


「あの……美晴です」


声が、震えた。
すぐにドアを開けてくれると思った。


だけど先輩は「ちょっと待って」と私に告げた。



「――――……?」

「…………、…!」

「―――、……」



なに……?
部屋の中から感じる気配。

中に、誰か、いる?

聞き取れないくらいのかすれ声だけど…

部屋の中から微かに聞こえた囁きに、ざわざわと心が騒ぐ。



そしてパタンと扉の閉じる音がした。


部屋の中に扉はひとつ―――
あの奥の部屋に通じる扉。





そして――――

ガラっと扉を細く開いて悠先輩が顔を出した。


「何?」

「――――っ!」


私は、気付いてしまった。





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