意地悪な君に
「頑張ってるな」
「!!」
突然後ろから声をかけられてびっくりした。
廊下に面した窓にもたれていた私は、聞き覚えのある声に慌てて振り返る。
「悠先輩!」
窓越しに現れたのは、悠先輩。
「なかなか話題の店らしいな」
この間、あんな気まずい雰囲気で別れたのに、完全にいつも通り。
先輩は、気にもしてないのかな…?
「はい、上位狙ってますから…」
「…………」
「…………」
話したい話したいと思っていたのに、いざとなると言葉が出てこない。
何か言わなきゃ…
頑張れ、私!!
「……あのっ、わたし
「ゆうーーー!お待たせ!!」
!!!
勇気を振り絞った私の言葉は、突然現れた誰かの声に虚しく遮られた。
「あ、佐伯さん。久しぶりだね。」
廊下の先から現れたのは木下先輩だった。
「こんにちは木下先輩。」
あぁ……
頑張って話そうとしたのに……
「さ、悠!見回りの続き行くよー」
「あ、ああ……」
そう言うと木下先輩は、悠先輩の腕を引っ張って連れて行こうとした。
腕を捕まれて悠先輩は、私に背中を向けて廊下を歩き出した。
待って……
引き留めなきゃ……
「あ、あのっ!」
私の声に足を止めて、悠先輩は振り返った。
どうしよう……
咄嗟に呼び止めてしまったけど、今は木下先輩もいるし、ちょっと話せない。
何も言わない私に、
「どうした?」
と、久々に優しいバージョンの悠先輩の声。
けど後先考えず呼び止めた私には、続く言葉が見つからない。
木下先輩は興味津々な顔ですっごい見てるし。
「あの、……紅茶!」
「へ?」
「私、紅茶担当なんです。今淹れるんで試飲して行きませんか?」
あぁ、
何言ってんの私…………。
さりげなさゼロ。
でも、焦って思わず出た誘いに自分でも驚いたけど、私の倍くらい驚いた2人を引き留める事には成功した。