意地悪な君に
車内は空いていたけど、私達はドアの近くに向かい合うように立った。
ホームで駆け込み乗車を注意するアナウンスが流れると、私の背中でプシューと音が鳴りドアが閉じた。
相変わらず沈黙なふたり。
ガタンガタンとリズムよく走る電車の窓からは、すっかり暗くなった町の景色が流れる。
「先輩はどこで降りるんですか?」
沈黙の方が気まずいから、気を使って話題を探す。
「北町」
「えっ、同じ駅!?先輩、ご近所さんなんですか!」
「いや。家は東町……」
「へっ?」
東町は、北町からはかなり遠い。
っていうか、電車だと完全に逆方向のはず。
「先輩!電車間違えてますよ!」
意外とうっかりなのかと驚いていると、3倍意外な答えが返ってきた。
「馬鹿。もう暗いから…送ってく」
えっ?
悠先輩が?
私を???
あまりの驚きに言葉が出ない。
嘘でしょ……
嘘でしょ……!!
わざわざ逆方向の電車にまで乗って!?
あまりにびっくりしたせいで、電車が駅に着いた事にも気付かなかった。
プシューという音がと同時に私のもたれていたドアが開き、私の視界はガクンと揺れた。
「きゃ・・・っ」
落ちる…!
と思ったのとほぼ同時。
悠先輩が私の肩を抱き寄せ、私はその胸にしっかりと抱き留められた。