意地悪な君に




車内は空いていたけど、私達はドアの近くに向かい合うように立った。


ホームで駆け込み乗車を注意するアナウンスが流れると、私の背中でプシューと音が鳴りドアが閉じた。




相変わらず沈黙なふたり。



ガタンガタンとリズムよく走る電車の窓からは、すっかり暗くなった町の景色が流れる。




「先輩はどこで降りるんですか?」




沈黙の方が気まずいから、気を使って話題を探す。




「北町」

「えっ、同じ駅!?先輩、ご近所さんなんですか!」

「いや。家は東町……」

「へっ?」




東町は、北町からはかなり遠い。
っていうか、電車だと完全に逆方向のはず。



「先輩!電車間違えてますよ!」



意外とうっかりなのかと驚いていると、3倍意外な答えが返ってきた。









「馬鹿。もう暗いから…送ってく」









えっ?





悠先輩が?


私を???





あまりの驚きに言葉が出ない。





嘘でしょ……
嘘でしょ……!!



わざわざ逆方向の電車にまで乗って!?






あまりにびっくりしたせいで、電車が駅に着いた事にも気付かなかった。




プシューという音がと同時に私のもたれていたドアが開き、私の視界はガクンと揺れた。






「きゃ・・・っ」






落ちる…!


と思ったのとほぼ同時。




悠先輩が私の肩を抱き寄せ、私はその胸にしっかりと抱き留められた。





< 72 / 156 >

この作品をシェア

pagetop